「規律と一貫性により、モチベーションは後からついてくる」ラグビー ニュージーランド代表 TJペレナラのメンタルコントロール


「例えば、朝起きた時に何かやろうというモチベーションがあったとしても、次の日の朝にはモチベーションがなくなることがある。感情は行ったり来たりがあって、アップダウンが激しい」


メンタルにおけるモチベーション重視の考え方について、今回のインタビューでこんな問題提起があった。常に高いモチベーションを維持できれば、アスリートはパフォーマンスを最大化できる。それは誰もが認めるところだが、様々なストレスが取り巻く日々の生活において、実践するのは並大抵のことではない。ラグビーのニュージーランド代表で司令塔を務めるTJペレナラは、その解決方法となり得るルーティーンを示してくれた。ペレナラにとってのメンタル、そして日々の生活やフィールド上で考えていること、実践していることとは。


TJペレナラのプロフィール
1992年生まれ。ニュージーランド出身。ラグビーワールドカップ2015、2019のニュージーランド代表で、ポジションはスクラムハーフとスタンドオフ。スーパーラグビーのハリケーンズ、トップリーグのNTTドコモレッドハリケーンズでもプレー。2016年からは、国際試合においてニュージーランド代表が行う儀式「ハカ」のリーダーも務めている。

充実したメンタルを維持するために、一番大切なこと


ペレナラは、メンタルについて語る上で「規律と一貫性」という言葉を何度も繰り返した。自身の経験上、この二つさえ実行していれば、高いモチベーションは自然に維持できるという確信があるからだ。


「メンタルはパフォーマンスに大きな影響を与えるが、私の場合は様々なレベルの試合でプレーするので、特に毎試合ブレないこと、一貫性があることを重視している。以前は、メンタルが安定せずプレーに影響してしまうことがあったが、この5、6年はしっかりとしたルーティーンがあり、マインドセットやメンタルスキルの準備をしているので、試合中にブレることはほとんどない。仮に試合がうまくいかなかったとしても、それが自分のメンタルの問題と考えないし、準備が足りなかったとも思わない。たまたま試合中に起こったことだととらえている。」


「メンタルの良い状態を維持し、生産性を上げるにはモチベーションが重要という人も多いが、モチベーションは波が激しい。だから、私は規律と一貫性が大事だと思っている。朝起きてやる気が起きなかったとしても、自分で決めたことを実行して小さな目標を一つずつ達成していく。それにより気持ちはついてくるし、その過程で成長できる。私にとってはモチベーションをコントロールしようとするより、規律と一貫性を守ることの方が大切だ。」


では、具体的に何をすればいいのか。ペレナラは、自身が実行している日々の練習や試合中のルーティーンについてこう説明する。


「メンタルというものは、試合の日の朝にパッと準備できるものではない。メンタル面の準備にはだいたい1週間くらいかけている。特に大事なのは、過去に試合で失敗したことや、苦手なことを繰り返し練習すること。苦手なものを避けたいという人も多いと思うが、私の経験上、自分を何度も練習で同じ状況に置くことで、試合の時に充実したマインドを作ることができる。」


「試合の時は、自分がどれだけやってきたか自信を持つことが大切だ。その自信をもたらすのは1週間前の準備だけではなく、ラグビーを始めた時からの積み重ねになるが。私は毎回フィールドに出る時、「どんな状況でも勝てる」「自分はできる」と心の中で思うようにしている。大きな選手もいれば小さな選手もいて本当に様々だが、しっかり準備をしているのなら自分を信じることが大切だ。勇気は自分の中にあるものだから。」



ペレナラはなぜ試合中に笑うのか


ラグビーは過酷な競技だ。広大なフィールドを全力疾走し、鍛え上げた肉体を80分間ぶつけ合わなければならない。ぎりぎりの戦いが繰り広げられる中でも、ペレナラは試合中に時折笑顔を見せる。あの笑顔の意味、そしてフィールドでの思考についてこう語る。


「試合中に笑顔でいるのは、その場にいられることがうれしいから。私は毎週ラグビーができることがうれしい。子どもの頃から大好きなスポーツだし、自分の人生でたくさんの時間をかけてきたもの。もちろん、時にはフラストレーションを感じてしまうこともあるが、すぐにマインドを戻すようにしている。」


「試合中に考えていることは、最後の80分までずっとチャンスを狙い続けるということ。特に後半はみんなの疲れが出てくるので、チャンスが増える。ラグビーにはいろいろなポジションがあり、様々な体格の選手がいるが、大きい選手は試合が進むにつれてだんだん疲れてくる。120キロの選手と90キロの私では、疲れ具合が違う。隙を逃さないことだ。」


「また、逆の考え方をすると、私のポジションはフィールド上では小さい方で、大きい選手がタックルなどの体力を消耗する部分を担当してくれている。彼らがタフな部分の90%をやってくれている中で、自分のパートは10%くらい。だから、体力で勝負する時は必ず全力でやる。そうすることで、具体的な行動としてチームメイトに戦う姿勢を示し、リードすることができる。」


ラグビー選手の前に、人としてどうあるべきか


ペレナラのメンタルを語る上で忘れてはならないのが、彼はニュージーランド代表が国際試合の前に行う儀式、「ハカ」のリーダーを2016年から務めているということだ。世界最強と言われるチームにおける、ハカのリーダーとはどのような存在であり、歴代のリーダーに共通していることは何だろうか。


「まず、ハカをリードできるということは、チームメイトから戦いのリーダーに選ばれたということなので、とても光栄に思っている。歴代のリーダーに共通しているのは、グループにおける「※マナ」 を備えていること。過去のリーダーたちにおけるマナはとても高かったので、私も同じレベルに到達したいと思っている。」

※勇気や知恵を持った者に宿るとされる、人や物を引きつける神秘的な力


「ハカをリードできる条件としては、ラグビーのスキル以上に性格や人格が大事だと思っている。特に、フィールド外でのふるまいが重要。もちろん、強い選手でないといけないし、 フィールドでしっかりプレーすることも必要だが、それだけではマナは動かない。人にどう接しているか、家族を大切にしているか、両親や奥さん、子どもとどう接しているか。そこに一番のリスペクトが置かれていて、フィールドでの功績よりも人としてのあり方、「どんな人間であるか」ということがもっとも大切だ。」



メンタルが弱った時のアプローチ


「ミスが怖い」「成長を実感できない」。結果が出ない時期は不安がつきまとい、メンタルも悪い方向へと向かってしまうことがある。そんな時に自分を奮い立たせ、前向きにしてくれるペレナラのマインドセットは、多くのアスリートにとって勇気を与えてくれるものだ。


「ミスについては、試合を見てもらえれば私もたくさんの失敗をしているのが分かると思う。ただ、同時にいろいろなことにトライもしている。誰にでもミスはあるので、1回ミスしたら次はしないようにしっかりと準備する。次に機会をもらえたら、同じ失敗をしないよう100%自分を信じる。ミスに対して何か言う人は、たいてい練習や準備段階の自分を見ていない人たち。だから、そういう人たちの意見は気にしない。自分に自信をもって、やってきたことを信じて、まわりの野次は気にしないことだ。」


「自分が成長しているのか不安になることについて、私も若い頃は同じ気持ちだった。私が言えることは、私たちは自分を毎日見ているということだ。トレーニングしている自分を見ているし、朝早く起きている自分も見ている。毎日自分を見ているから、成長が見えにくいのだと思う。もしかしたら、長い間会ってない人から見たら、すごく成長しているかもしれない。だから、自分で自分の成長に気づけなかったとしても、落ち込まないでほしい。毎朝起きてトレーニングをして、やるべきことをやっているのであれば、その事実は変わらない。確実に伸びている。例えそれが0.01%や0.02%であっても、必ず成長している。だから、自分を信じてやり続けてほしい。誰でもやるからにはすぐに結果を出したいと思うし、身体が強くなっていると実感したいと思うだろう。それが見えないのは、精神的にきついはずだ。でも、そうやって少しずつトレーニングを続けてきたことは必ず自信につながるし、自分では気づけなかった日々の変化は、試合で良いパフォーマンスを発揮する土台になる。」



今シーズンから、新たにトップリーグのNTTドコモレッドハリケーンズでプレーしているTJペレナラは、日本でのプレーについてこう語る。


「私にとって新しい経験だし、新しいラグビーの見え方にもつながっている。これまでずっと同じチームにいたので、チーム内でのポジションやルーティーンがある程度決まっていたが、ここでは新人。だから、まずはここに長くいる人たちから信頼を得ることが大事だし、そのためには一から始めないといけない。毎日違う取り組み方を試すなど、良い経験になっているし、この機会に感謝している」


世界最高峰の舞台で活躍してきた実績に関係なく、新しい環境でどん欲に挑戦し、成長しようとする姿勢もまた、トップアスリートとしてのペレナラのメンタルを形成する大きな要素の一つなのかもしれない。


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