廣瀬俊朗「メンタルとは、周りと一緒に育てていくもの」いわきFCは、ブレないビジョンとともに成長する


今回で3回目となるアスリートサミットは、JFLに所属するサッカーチーム、いわきFCのスタッフ陣をゲストに迎えた。MCを務めた元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗氏が、自身の体験談も交えて、メンタルについての学びを振り返った。


廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)のプロフィール
1981年生まれ。5歳からラグビーを始め、慶大を経て東芝でプレー。日本代表としても活躍し、2012年からエディ・ジョーンズ監督の下でキャプテンを務めた。現在は株式会社HiRAKU代表取締役としてスポーツの普及や教育に取り組むとともに、日本テレビ系列「news zero」へ木曜パートナーとして出演するなど、幅広く活動している。

3回目を迎えたアスリートサミット。いわきFCの方たちとの対談について考察する前に、過去のサミットの様子を振り返ってみたい。


1回目は、バスケットボール、サッカー、ラグビーの高校の指導者が集まり、競技の枠を超えてメンタルについて話をした。それぞれの監督は、その人なりのコーチングで選手に接していた。「選手の性格が何よりも重要」、「普段から試合のような雰囲気を選手同士でも作っていくことが大事」、「監督の発想を超えないとさらに上にはたどり着けない」、「タイムアウトを監督に要求するぐらいのリーダーシップが重要」など、多くの示唆に富んだ対談になった。

2回目は、元オールブラックスで現在はNTTドコモレッドハリケーンズでプレーしているTJペレナラ選手。ドコモの今シーズンの躍進を支えている張本人である。「準備してきたから自信をもって挑むことができる」、「オフザフィールドの重要性」、「自分では成長が実感できなくても頑張っているなら大丈夫、他人が見たら成長していると感じるはず」など、彼の実体験によるマインドセットは大変勉強になった。



自分たちの存在意義が明確だから、頑張れる


今回は、いわきFCのスタッフ陣をゲストとしてお迎えした。いわきスポーツクラブ代表の大倉智さん、いわきFC監督の田村雄三さん、コーチの渡邉匠さん、強化部スカウトディレクターの平松大志さん。全員元Jリーガーで、色々な経験を経て、今の立場に携わっている。


いわきFCは、「スポーツを通して地域に貢献する。復興に貢献する。フィジカルスタンダードを上げて、日本のフットボールを変えていく」というビジョンのもとに立ち上がった、稀有な組織である。一般的にスポーツチームは、勝利を求められる環境のため、目先の勝ちに集中しがちになる。いわきFCはそれだけではない。勝利だけではなく、自分たちの存在意義を明確にしているのだ。チームとしてのメンタルを強くして、しぶとくなるためにこの部分はとても重要と個人的には考えている。我々はなんのために存在しているのか。目的に対してチームにいる人間が共感していると、それぞれがちょっとしんどい環境や状況になったとしても、もうひと頑張りすることができる。自然と力が出てくるものなのだ。そして、その目的が勝利というコントロールできないものではなくて、自分たちのあり方を問うものであった方が良い。あり方は、自分たち次第だからである。思考が外にいくのではなく、内側に向く。例え環境が悪くとも、思い通りいかないとしても、自分たちがどうしたら良いのかと考えられるようになる。


このマインドセットは、個人でも同じように当てはまると考えている。1人の人間として、どうありたいのか。どうなりたいのか。この部分をまずは自分の中で整理して、軸を作ること。軸があれば、例えば、試合に出られないと決まった時の言動が変わってくる。大一番の勝負の時に、ありたい姿が明確であれば、結果をそこまで気にしなくなり、自分のやるべきことが見えてくる。そうすることで、良い結果が出る可能性が高まる。もう一つは、この時に自分のことを信じられるかどうかである。これは、そこまでのプロセス、準備の質に関わってくる。この瞬間を迎えるにあたり、これだけの準備をしてきたから大丈夫と心底思えるのかどうか。2015年のラグビーワールドカップ、南アフリカ戦の直前、僕はメンバー外であったが、心は透き通っていた。こんな清らかな気持ちで試合を迎えられたことは、これまでなかったかもしれないと思うほどに。皆が結果を気にするのではなく、目の前のことに没頭した。その積み重ねで勝利が転がり込んできた。



メンタルは競技以外の部分からも鍛えられる


渡邉さんも没頭という言葉を何度も口にしていたが、まさにこの状況がワールドカップであった。渡邊さんは、現役の最後の数年間はポルトガル語の勉強をしていたとおっしゃっていた。毎朝早くに起きて1時間半、ポルトガル語の勉強に没頭していたとのことであった。この行動を、二つの理由から素晴らしいと感じた。例えサッカーがうまくいかなかったとしても、違うことに没頭することによってマインドが切り替わり、再び良い状態でサッカーに取り組めること。もう一つは、サッカーで例え自信を得られなかったとしても、他のことを続けることで継続することの楽しさや成長実感が得られるのではないかということだ。メンタルを強くする方法は、その競技に取り組むことだけではない。他のことからも得られるという示唆であった。


成長に目を向けることの大切さも言われていたが、まさにその通りである。成功できなかったとしても、頑張ってきて成長している部分はある。その部分に目を向けながら、コーチとして声をかけて選手をサポートしているとのことであった。渡邉さん自身も現役時代は、なかなかそのマインドにならなかったが、先輩から学んだり、自己を客観的に振り返ったりすることで、その重要性を見出していったようだ。


選手に寄り添い、皆で支え合う


田村監督は、この部分のサポートをどうしていくのかということに対して、「寄り添う」という表現をされていた。その人に響くタイミングは、こちらで設定するものではない。相手を観察しながら、コーチ間で共有しながら、良きタイミングで色々なことを聞いていく。我慢しながら本人が変わっていくことを待つ。メンタルは、本人だけでなく、周辺で携わっている人たちと共に作っていくものであると、あらためて実感することができた。


その観点から考えると、平松さんの現役時代の怪我のリハビリ経験についてのエピソードには、なんとも辛い気持ちも湧いてきた。怪我をした自分をなんとか取り戻そうと、ストイックに自分を追い込みすぎ、「こんなはずではない、もっと頑張らないと」という思いから、余計な負荷が心身ともにかかった。その結果として、プレイヤーとしてなかなか成功するまでに至らなかったという思いを持っているようであった。その当時の本人に一声かけるとすれば、「頑張りすぎるな」。今だからこそ頑張りすぎるなと言えるが、その当時は、それこそが唯一の道であると信じている時に、本人はなかなかわからないのではないかと思う。だからこそ、身近な人の支えはとても大事になってくるとこの事例からも感じた。メンタルを鍛えるためには、孤独だと限界がある。皆で支え合って作っていくものなのである。



心は弱いのが当たり前、だから鍛える


そして、そもそもメンタルって強いのか?という問いに対して、大倉さんは、「メンタルは弱くて普通という前提は本当に大事」と言われていた。つまり、メンタルは育成論になる。この点も全く同感である。そもそもメンタルは強いのではなく、皆で育てていくべきものなのである。


では、どこから育てていくのかと考えた時に、頑張りが見えやすいフィジカルに注力しているいわきFCは面白いと思う。自分たちの様々なフィジカルトレーニングの成果が可視化されていく中で、自分の中で自信が生まれてくる。フィジカルの向上によってパフォーマンスが向上することもあるが、自分自身に対する自信が生まれたことによるパフォーマンスへの影響も、あるのではないかと思う。渡邉さんの話の繰り返しになるが、メンタルの鍛え方は競技そのものに取り組んでいる時に限らない。いわきFCの前提として、元々エリート選手が続々と入団してくるわけではないので、自信満々の選手がたくさんいるわけではない。このやり方は、一つの方法としておもしろいと感じた。現在は、この哲学を信じて入団してくる選手もいる。もっと伸びていくのではないかと感じた。



これまで様々な具体的な事例を通して、メンタルについて考えてきた。とても興味深い話が聞けたのではないかと思う。感想としては、自分自身を知り、どうなりたいのか、ありたいのかを考えぬく。そして、自分自身も頑張るし、周りにも助けてもらいながら、共に取り組んでいく。結果だけに捉われるのではなく、プロセスに集中するということではないかと思った。


今回の対談を通して、自分の中でなんとなく思っていたことの輪郭が見えてきた。解像度が上がったとも言えるかもしれない。本当に感謝している。これからも皆さんと共に自分自身を磨き続けたいと思う。

またお会いしましょう!!


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心は強くなれる



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